
はじめに
先日、信州大学工学部で実施されたプロジェクト学習 ( PBL ) の成果発表会に参加させていただきました。学生の皆さんが制作した Web 作品の発表を拝見し、フィードバックをさせていただく機会をいただきました。
PBL(Project Based Learning)とは
PBL(Project Based Learning)は、実社会に近い課題に取り組むプロジェクトを通じて学ぶ教育手法です。学生は試行錯誤しながら成果物を制作し、発表までを経験することで、知識だけでなく、考える力や協働する力、コミュニケーション力を身につけていきます。
参考資料
テーマ設定の背景
本 PBL では、企業側が感じている仕事上の課題を教員と共有しつつも、学生の発想に先入観を与えないよう、あえて非常に抽象度の高いテーマが設定されていました。
エンジニアの仕事は、仕様書と成果物だけで完結するものではありません。
実際の現場では、ビジネスロジックや要件の背景、なぜその機能が必要なのかといった文脈を、会話を通じてすり合わせながら開発を進める場面が多くあります。
より良い成果物を作るためには、仕様に書かれていない意図や前提を理解することが不可欠であり、そのためにコミュニケーションが重要になります。
「潤す」というテーマには、そうした人と人との関係性を円滑にし、コミュニケーションの質を高めることの重要性が込められていました。
今回の PBL の概要
- 日時:2025 年 12 月 11 日(木)13:00 ~ 16:00
- 授業名:ヒューマンコンピュータインタラクション
- 対象学生:電子情報システム工学科・情報システムプログラム・3 年生
発表会では、JavaScript、HTML5、CSS3 を用いた作品が発表されました。テーマは「潤すインタラクション」で、学生たちは「潤す」という言葉を広く解釈し、問題解決や利便性向上につながるインタラクティブな作品を制作していました。
当日の流れ
- オープニング
- 作品発表とデモンストレーション (25 人が順番に 5 分でプレゼン)
- 企業側と先生からの講評・フィードバック (各プレゼン後に 2 分で講評)
- 結果発表
作品の傾向と特徴
個別の作品には触れませんが、全体的な傾向として以下のような特徴が見られました。
テーマの解釈
「潤す」というテーマに対して、学生たちは多様な解釈を示していました:
- コミュニケーションを円滑にする系:52%(13 作品)
- 日常生活の利便性向上系:28%(7 作品)
- 心理的な癒しや安らぎ系:12%(3 作品)
- その他独創的なアプローチ:8%(2 作品)
最も多くの学生がコミュニケーション関連のテーマに取り組んでおり、SNS やチャット、オンライン通話など、人間関係を円滑にするアプリケーションが中心となっていました。
多くの作品では、「潤す」や「インタラクション」というテーマを辞書で引き、自分なりに連想を広げながら制作に取り組んでいた傾向が見られました。SNS や自分への潤いを満たすためのツールなど、テーマから連なる形で作品が構想されていました。一方で、テーマからずれた作品や、より直接的な表現にした作品も一定数見られました。
技術的な特徴
- AI, API の活用:11 作品(44%)が Gemini API を使用または構想していました。言語生成や自然言語処理を活用した作品が多く、AI 技術への関心の高さが伺えました
- フロントエンド技術:React などのモダンフレームワークを採用した作品が多く、Vite などのビルドツールも活用されていました
- リアルタイム通信:Socket.io や WebRTC を用いたリアルタイム通信機能を実装した作品も見られました
- 外部 API 連携:Spotify、Firebase、faceAPI など、外部サービスの API を組み合わせた作品が複数ありました
- インタラクション:JavaScript を用いたアニメーションやユーザー操作への反応が実装されていました
講評の様子


発表会を通じて感じたこと
学生の実行力
1 ヶ月という短い期間かつ、大学の授業という環境の中で、学生たちの課題に対するやる気は人それぞれだったと思います。アプリを作るだけでも大変なのに、作品を完成させて発表している学生たちの実行力には驚きました。
テーマ解釈の多様性
発表会を聞いていて面白かったのは、学生たちそれぞれのカラーが作品に表れていたことです。ジョジョが好きな子、阿部寛が好きな子、スキーが好きな子など、個人の興味や好みが作品に反映されており、多様な視点から「潤す」というテーマに取り組んでいました。
個人的な気づき
近年はチャットツールが普及し、若い世代はテキストベースのやり取りで完結させたがっているのではないか、という先入観を持っていました。ところが実際には、リアルな対面での会話や、オンラインであっても顔を合わせたコミュニケーションなど、人と人が直接つながることを大切にする発想の作品が多く見られました。
コミュニケーションの形は変化しても、「直接伝えたい」「相手と向き合いたい」という価値は、今も変わらず重視されているのだと感じました。
今後の展望
今回の取り組みを通じて、大学や地域と関わることで、学生と企業の双方にとって学びのある場が生まれる可能性を感じました。
今後も、無理のない形ではありますが、大学や高校、地域のコミュニティと関わる機会があれば、引き続き参加していきたいと考えています。
- 大学や高校との連携
- インターンシップや企業参加型 PBL への協力
- 信州大学での来年度 PBL への参加(予定)
こうした取り組みを通じて、結果として、地域の IT に関心を持つ人が少しずつ増えていけばと考えています。
まとめ
今回、信州大学工学部で実施された企業参加型 PBL の成果発表会に参加し、学生の皆さんの作品発表を拝見しました。短い期間の中で試行錯誤しながら制作された多様な作品に触れ、貴重な機会となりました。
執筆者:牧